特集 吉澤嘉代子セカンド・アルバム『東京絶景』インタビュー



「東京絶景」は、日々の暮らしの中でしか見る事のできない特別な風景

 

昨年の10月に発売された6曲入りミニアルバム『秘密公園』でMUSICSHELFに初登場した吉澤嘉代子。あれから4か月という短いインターバルで、フルアルバム『東京絶景』を発売する。このアルバムは、マーティ・フリードマン、中尾憲太郎、かみじょうちひろ(9mm Parabellum Bullet)、曽我部恵一、高田漣などの個性的なミュージシャンが各曲に参加した上質なサウンドが特徴だが、日常の中のありふれた風景が「絶景」に変わる瞬間が散りばめられている。そんな、ニューアルバム『東京絶景』に込められた想いを現代の魔女:吉澤嘉代子にインタビューさせていただいた。

 

ーー昨年の10月に初めて吉澤さんにインタビューさせていただいて、とても印象的で楽しいインタビューだったので、今日もいろいろなお話を聞かせて下さい。よろしくお願いします。

 

私もとても楽しかったです。今日もよろしくお願いします。

 

ーー僕は昨年、松本隆さんにインタビューさせていただいたんですが、それに匹敵するくらい吉澤さんのインタビューはインパクトがありました。やはり言葉にこだわっている方のインタビューというのは、言葉に「ハッ」とさせられます。

 

実は先日、松本隆さんにTwitterをフォローしていただいて、個人的に大好きな作詞家さんなので、私の名前を知っていただけただけで感激していたところだったんです。

 

ーー松本隆さんは、いろいろ細かくチェックをしている方ですから、吉澤さんの事が気になっているのかもしれませんよ。

 

もしそうだったら、とても嬉しいですよね。

 

ーー前回のインタビューでは、吉澤さんの生い立ちをたくさん聞かせていただいたので、今回は2月17日に発売のセカンドフルアルバム『東京絶景』のお話を中心に聞かせて下さい。2015年は吉澤さんの魔女修行はいかがでしたか?

 

私の中では魔女修行というのは、感覚を研ぎ澄ますという作業ですが、良くも悪くも心がたくさん動いた1年だったと思います。その変わり生活はめちゃくちゃだったような気がするんです。早寝早起きとかも出来なかったですし(笑)

 

ーー2016年になったばかりですが、吉澤さんは年頭に誓いを立てるタイプですか?

 

誓いを立てるんですけど、誰にも言わないですね(笑)誰が聞いてもつまらない目標なので言わないです。

 

ーーその目標は達成率高いんですか?

 

目標を高く掲げすぎていて、とても低いです(笑)

 

ーーそんなに何個も目標を掲げてしまうんですか?

 

一つだけですけど、それが高い目標なんです。いつも企画倒れです(笑)。

 

ーー10月に6曲入りのミニアルバム『秘密公園』のリリースをしたばかりなのに、2月にフルアルバムというのはずいぶんインターバルが短いですね。

 

『秘密公園』が5曲書下ろしの作品だったので、私にとってはかなりタイトなスケジュールでした。それが結構大変だったんですが、『東京絶景』はパッケージングしたいものが明確にあったので、それがモチベーションになっていました。

 

ーーじゃ今回は煮詰まることなく制作が出来たと・・・・

 

いえ、煮詰まらなかったことは一度もありません。毎回煮詰まります。「スランプはありますか?」と良く聞かれるんですけど毎回スランプなので、それが通常になってしまっているので、もはやスランプはないという(笑)。

 

ーー『秘密公園』というアルバムは素晴らしかったのですが、いろいろな反響があったと思います。意外な反響などはありましたか?

 

毎回そうですが、「可愛い曲だよね」と言われる曲が、その曲のどの部分が可愛いのか?が解らなくてビックリすることがあります。女の子のエゴを歌ったような内容の曲でも「可愛い」と言ってもらえるので、曲の受け取られ方というのは奥が深いなと毎回思います。

 

ーー「綺麗」という曲はとても評判が高かったみたいですね。

 

そうですね、特に同業者の方からの多くの評価を頂けた曲だったので、それがとても嬉しかったです。

 

ーー前回のインタビューで「メジャーで活動をするというのは、大きな船に乗って舵取りをしているイメージがある、そこには少女時代の私も乗せて走っている」という言葉がとても印象的でした。

 

メジャーで活動をするというのは、私が少女時代に私が感じていたような、世の中の流れに乗れない孤独や焦燥感を感じている人たちに向けてのメッセージを届ける手段でもあります。そのモチベーションをなくしたら、メジャーから作品をリリースする必要もなくなってしまうので、今でも船に乗って舵取りをしているような感覚はありますね。

 

ーー吉澤さんの<少女時代>というのは、どの時点で終焉を迎えたんでしょうか?

 

子供の頃、魔女修行中にお供させていた犬が居たんですけど、私にとっては、とても大事な存在でした。ウィンディという名前だったんですが、「ウィンディが死んだら私の中の何かが終る」と思っていました。ウィンディが死んだ時に解ったんですが、その時に私の中の<少女時代>が終りました。

 

ーー今回のフルアルバム『東京絶景』は音源をいただいた時に、あえて歌詞を見ないで曲を聴いたんですね。そうしたら、言葉のかけら達が破片のようにグサグサ刺さって来たような印象でした。サウンド含めて名盤が誕生したような感覚でしたが、吉澤さん的にはいかがでしょうか?

 

好きな曲ばかり収録したので、お気に入りです。今回は<日常の中の絶景>をテーマにしてアルバムを作りたいと思っていました。

 

ーーそれはいつも吉澤さん中にある、テーマの一つだったんですか?

 

デビューする前から、最初に<少女時代>をテーマにしようとは思っていたんですが、今回はその殻から飛び出した女の子像を描きたかったんです。そこには<日常>というテーマが不可欠ですし、16歳から曲を書き始めてから、もともと自分の中にあったテーマではあります。

 

ーー「movie」はオープニングにふさわしい素敵な1曲ですよね。この曲の歌詞には<箒星>というワードが出てきますが前作のアルバム『箒星図鑑』と今回の『東京絶景』を繋ぐ重要な曲なのではないかと、勝手に解釈しています。

 

私の中では重要な曲で、『箒星図鑑』でいう所の「ストッキング」のような立ち位置の曲です。私の中の節目にある重要な1曲ですが、先ほどお話しした、犬のウィンディが死んでしまった時の心境を歌ったものです。言葉にするのは難しいのですが、死んだものと夢の中で待ち合わせをするというのが舞台になっています。

 

『東京絶景』を通して皆さんそれぞれの絶景を見てほしい

 

ーー今回のアルバムの歌詞は女子があまり正面切って言えないような、赤裸々な心境がたくさん封じ込められているアルバムですね。夜中に「ひゅー」を聴いたんですけれど、ラーメンが食べたくなって困りました(笑)今回のアルバムは食べ物がたくさん出てきますね。

 

今回のアルバムは「日常」がテーマなので、食べ物や、体のパーツである「胃」や「心臓」もそうですし、お化粧を落とすことも日常なのでそういう事が詞のテーマになっています。でも、気が付いたら食べ物がたくさんになっていました(笑)。

 

ーーお寿司、ガリ、餃子まで出てきますね。餃子という小道具の使い方が、女子の心理を上手くついていて絶妙ですよね。

 

ラーメンとかお餅とか、炭水化物率高いですね(笑)

 

ーー三ツ矢サイダーやカルピスソーダという飲み物も具体的に出てきますが、炭酸類はお好きなんですか?

 

私はあまりお酒が強くないので、家ではほとんど飲まなくて、ビールを飲んで<クーッ!>みたいのは、私にとっては三ツ矢サイダーなんですよ(笑)。

 

ーー今回のアルバムで一番好きな曲が「ジャイアンみたい」なんですけど、テーマの選び方もそうですし、言葉一つ一つも何だかグッと来てしまうんです。ジャイアンを切ないアイテムにしてバラードにしてしまうあたり、やはり天才ですよね。

 

ホントですか?すごくうれしいです。私は曲を作る前に最初に、タイトルを決めてから作り始めるんですが、聴く前にタイトルだけ見たら、ポップな曲だと思われますよね、きっと。ここでのジャイアンというのは、(相手に対して)横暴だったという意味で、ワガママを言ってしまい、独りよがりだったという事ですが、こういうテーマは、ストレートには歌えないので、それを歪ませたものが「ジャイアン」になりました。

 

ーー吉澤さんの中には「ジャイアン」は居ますか?

 

居ますね(笑)ジャイアンみたいな部分は嫌ですね。

 

ーーでもどんな人の中にも「ジャイアン」的要素はあるんじゃないですか?この曲で泣き出す女性ファンが必ずいらっしゃると思います。

 

「ジャイアン」で泣いて下さったら、それは嬉しいというか、反響が今からとても楽しみです。

 

ーー昨年のミニアルバム『秘密公園』から「ユキカ」と「綺麗」がセレクトされていますが、それは最初から決めていたんですか?

 

そうです、この2曲は『東京絶景』というアルバムを見越して作った曲です。「絶景」というテーマに合った曲でなければ収録できませんから。

 

ーー『秘密公園』があったから『東京絶景』があるのか、またはその逆なのか?どちらでしょうか?

 

『東京絶景』があるから『秘密公園』があるという、位置関係になります。それは最初から決めていました。

 

 

ーータイトル曲である「東京絶景」はいつごろから温めていたテーマだったんですか?今回も見事に4文字熟語的タイトルになりましたね(笑)

 

それは意識していたわけじゃないんですが、結果4文字になりましたね(笑)今まで、曲名とアルバムタイトルを同じにしたことはなかったんですが、今回はそういう意味では初のパターンになります。「東京絶景」という曲があるからアルバムが存在するので、このタイトル以外には考えられませんでした。

 

ーー「東京絶景」という曲はどんなきっかけで思いついたんですか?

 

これは20歳の時に書いた曲ですが、それからほとんど歌詞を変えていないんです。友達が新代田で一人暮らしを始めた時に、遊びに行った時の印象を歌にしています。朝日が差し込んで来る壁の色や、部屋に干してある下着を見て、「あー一人暮らしを始めたんだな・・・」という情景や心情が歌になっています。その友達にプレゼントしたいと思って作った曲です。

 

ーーそれはもしかしてユキカちゃんでしょうか?

 

そうです、繋がっているのがわかりますよね(笑)

 

 

ーー一人暮らしを始めたたばかりの方って孤独や不安もあると思うんですが、この曲ってそういう暗闇の中に、夜明けの光を見出したような希望を感じる曲なんじゃないかと思いました。でも、吉澤さんは地方の出身じゃないからこそ、こういう詞を俯瞰(ふかん)的に書けるんじゃないかと思うんですが・・・。

 

私は橋を渡ったら東京という場所に暮らしてきたので、東京に対して特別な想いがあるわけではないので、だからこそ、この曲の中での東京は美化して書いていないんです。美しいという言葉は出てきますが、ひらがなで「うつくしい」にしているのも、もっと広い意味で受け取ってほしいという想いがあります。

 

ーー吉澤さんにとって「東京」のイメージはどのようなものですか?

 

仮想都市のようなイメージがあります。東京という言葉自体がモンスター化していて、実は穏やかに住んでいる人もいると思いますし、東京という言葉の世界と実際の東京ではイメージが分裂しているような気がします。

 

ーー「化粧落とし」の中には、<ユーミンの「ルージュの伝言」>という具体的なフレーズも出てきますね。

 

この曲に関しては、言葉の画数が多い文字が似合うと思って、あえて「私立探偵」だとか「警察沙汰」という単語を取り入れてゴテゴテとした印象になるような曲にしたかったんです。

 

ーーまたここでも四文字熟語的なワードが出てきますね(笑)

 

あー本当ですね(笑)、やっぱり好きなんですね。

 

ーー吉澤さんは、曲を作る時に様々なキャラクターの主人公を立てるじゃないですか、アルバム『東京絶景』の中でより自分のキャラクターに近いのはどの主人公ですか?

 

<ひょうひょう>ですかね?この曲は、私の中での人生のテーマソングです。19歳の時に書いた曲ですけれど、当時は<ひょうひょう>とした人に対しての憧れが強かったんです。でも、<ひょうひょう>とできない時には逃げてもいいんだよ、という事を伝えたかった曲です。私もかつては、集団生活のようなものから逃げ出しましたが、その先にあったものは、物語だったり、妄想だったり、歌を作って歌うことだったりしたので、逃げ出すことが自分にとって大切なものを見つける事が出来るきっかけでした。ですから、逃げ出すことは決して、悪い事じゃないんだよという事を、この曲の中で一番伝えたかったんです。

 

ーー今回は、一言で言うと(笑)、参加ミュージシャンが豪華ですよね。1曲、1曲参加している方が違うのにアルバムとしての統一感があるので、クレジットを見るまでは気付きませんでした(笑)。

 

今回、様々なバンドのミュージシャンやアーティストの方の参加していただけて、私はとても恵まれていると心から思いました。バンドというスタイルに昔から憧れがあって、毎回同じ人と音を作っていくという一体感のようなものがすごく好きでした。でも、私の曲は曲ごとに違うキャラクターの主人公を設けているし、曲ごとにサウンドの表情や世界が変わってしまうので、同じバンドでやるのは難しいかもしれません。性格的にもそうですけれど(笑)。私自身が、サウンドの事や、自分の世界観を説明するときに、言葉足らずで上手く表現できない時にも、そのニュアンスや意図をくみ取って、理想の形にして下さる周りのスタッフの方にはとても感謝しています。

 

ーー参加されたミュージシャンで、組んでみたかった方は居ますか?

 

これまでも参加していただいていますが、ベースの伊賀 航さんはすごく好きな方だったので、今回とても嬉しかったです。

 

ーーマーティ(フリードマン)さんはいかがでしたか?

 

とても優しい方で、私の曲の事を褒めて下さってとても嬉しかったです。

 

ーー大切な曲であり、重要な曲でもある「東京絶景」では曽我部恵一さんがアコギを弾いていますね。

 

私自身、是非ご一緒したいと思っていた方だったので、とても感激しました。この曲のイメージが新代田だったので、是非下北沢に近い曽我部さんにお願いしたいなと(笑)。

 

ーー様々なミュージシャンやアーティストが参加しているこのアルバムですが、吉澤さん自身が最近気になっているアーティストが居れば教えて下さい。

 

二組いまして、「岡崎体育」という盆地テクノの方と、「ザ・プーチンズ」というテルミンをやっている怪電波ユニットです。(ロシア系怪電波ユニット)二組とも誰もまだやった事のない世界やパフォーマンスを表現されていて、自分にとってはとても刺激になる二組のアーティストです。

 

ーー初回盤のCDにはDVDが付きますけれど、メイキング映像も収録されていますね。

 

セクシーショットが収録されています(笑)。私なりのセクシーショットですけれど、それくらいはご用意していますという感じで。なんちゃって。

 

ーー4月には全国ツアーでいろいろな場所を回りますね。

 

今までは物語形式で小芝居の要素を入れたコンサートだったんですが、前回はライブらしいライブにしようと思って、シンプルな構成にしたんですね。でも、改めておしゃべりがあまり得意ではない事がわかったので、今回は得意分野の要素を入れた内容のものを企てています。

 

ーーツアーのラストは東京国際フォーラムCですが、かなり大きな舞台になりますね。

 

初のホールでのコンサートになるんですが、私が表現したい世界を、より理想的な形で表現できる空間だと思っているので、今から不安でもありとても楽しみです。

 

ーー今回、初めて吉澤さんのコンサートに行かれる方もいらっしゃると思うんですが、これだけは聴いておいて欲しい定番曲があれば教えて下さい。

 

今回必ず歌いたい曲は「雪」という曲です。アルバム『箒星図鑑』に収録されている曲ですが、春が来て哀しみが全部溶けて、主人公が再生して生まれ変わるという歌です。

 

ーーそれでは最後に、今回アルバム『東京絶景』で初めて吉澤さんを知る方もいらっしゃると思いますので、あらためて今作の聴きどころをお願いします。

 

傍から見たら些細な日常のワンシーンや平凡な風景が、ある感情加わった瞬間に、自分だけにしか見る事のできない絶景に変わると思うんです。ですから、このアルバムを日常生活のBGMにしてもらい、皆さんそれぞれの絶景を見てほしいと思っています。